今月の断片 2020-10

 

 映画を観に行った。10月1日のことだった。電車を降り、新宿を歩いていると、スーツ姿の若者が目についた。内定式へ向かうのか、あるいはその帰り道だろうと思われた。映画を観に出かけている身で言えるセリフではないが、このご時世でも内定式のために駆り出されるのだなあと、他人事のように、いや事実他人事として思っていた。ぼくの就職先は内定式を行わず、12月の新入社員顔合わせ会(オンライン)で済ませるらしい。潔くて良い。

 ところで、どうして就活生は他の社会人と見分けがつくのだろう。単純に見た目が若く、真っ黒で新しいスーツを着ているからか? そういう視覚的な要素が最初に浮かぶが、ぼく自身は納得できていない。もしかしたら、その本当の理由は、就活生が、社会にまだ馴染めていないからかもしれない。街の空気から少し切り離されているので、輪郭が分厚いのかもしれない。彼らもやがて街に馴染んで行く。そして、ぼくもそうなる。

 

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 学生生活、残り半年?????

 この驚きが大学4年生の10月に襲ってくる。何度指折り数えても間違いない。10、11、12、1、2、3月。やばい。もっとずっと先だと思っていたモラトリアムの終わりが差し迫る。やり残したことを探すにも、ここはパンデミック世界線である。マスクで顔を覆ったまま、夏が終わり、秋が深まり、冬になろうとしている。

 

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 双子が入院した。目的はぼくが大学2年生の夏に入院したのと同じだ。つまり、顎の骨を7ミリ削って、生まれつきの受け口を治すのである。同じタイミングで矯正を始めたはずなのに、何故だか2年以上も差が開いてしまった。

 ぼくたち杉田双子は仲が良い。双子が何組も通っている高校(世の中にはそういう場所がある)でも仲が良い方だったから、単に双子だからと言う以上に仲が良い。休日は大抵、双子でスマブラの対戦をしている。高校の友達付き合いも共通していたので、同じ飲み会に参加することもよくある。

 そんな相方が入院してしまったので、家に1人になった。正直、他の家族はあまり好かない。嫌いではない。それどころか、世間的に見ても、良い人たちだと思う。でもやっぱり友達にはなれないし、年齢が離れているし、居心地の悪さを感じている。自粛期間に入って父親が在宅勤務になってからは、あまり食べなくなりさえした。家族揃っての食卓が苦痛なのだ。どうやら、相方もそうらしかった。

 たまに訪れる1人だけの食卓は心が休まる。のびのびした環境で、食事を素直に楽しめるような気がする。相方も今頃、病院食を楽しんでいるのかもしれない。ぼくは羨ましくなる。