2018-01-01から1年間の記事一覧

家と旅

「やっぱりおうちがいちばんだね」 そう言ったのは、幼稚園に初めて行った日のぼくだそうだ。温かいお茶をすすりながら言っていたと母から聞くと、我ながら微笑ましくもなる。 ぼくたちは、いつもと同じだと、安心する。ずっと続くと退屈だけど、慣れ親しん…

『笹舟』

靴を脱ぎ小川に裸足を浸していると、上流から笹舟が流れてくる。おかしなことに、笹舟には一行の言葉が乗り込んでいるらしい。気になってそれを手に取ると、こうあった。 「電車で隣の人が寝そうな時、寄りかかっていいのにといつも思う」 優しい人のあるあ…

開けなかった送別会

歯医者に入院した。下顎前突症と言うそうで、下アゴが前に出ているいわゆる受け口の矯正手術のためだった。顎関節近くの骨を一度切断し、接合面を削ることで下アゴを短くすると言う、大きな手術だった。 一年前、はじめに説明を聞いた時、思った。 本気で言…

『問答法』

猫を見ましたか? なんですか? 猫です、先ほどまでここにいたのですが… 見ませんねぇ、鳴き声も聞かなかった。 そうですか。いや、それは…、まぁいいんです。本日はありがとうございます。 いや、こちらこそ、わざわざどうも。 いえいえ、こうしてお話を伺…

言い訳程度に2

またはてなブログからメールが来た。更新してみては?だそうだ。悔しい。なんだか自動送信に世話されてるみたいだ。しかし、次はないとここで宣言しておこう。なぜなら今月末、とある事情から絶好のブログタイムが訪れる予定だからである。乞うご期待、とで…

言い訳程度に

はてなブログからメールが来た。無論自動送信のテンプレートだが、要するに前回の更新から1ヶ月が経つのでそろそろいかがですか?とのことである。 ここ最近更新がなかったのは、少しやらねばならぬことがあって(つまり非常に平凡な煩雑さの中にいて)、ブ…

こんな愛はいやだ60

このブログを読んだ幼なじみに「愛について書いてよ」と言われたので、書くことにしました。題して「こんな愛はいやだ60」。いやだなーと思う愛を60個書きました。 重さが20t。 熱さが3万℃ あるいは冷たさ−6万℃ あまりに歪みすぎて、飛び込むとタイムスリッ…

平成の時間旅行

座って休もうとベンチに近づいて初めて、小さい頃その公園に来たことがあると気づいた。ベンチのすぐ近くにある遊具の形が、妙に印象に残っていたのだ。それは4つのスロープが小さい部屋を支えているような、なんともいかつい滑り台で、外側の階段だけでは…

家に帰る生き物

子どもの頃の記憶だが、教育テレビの番組に、殻ではなく家を背負ったカタツムリが登場するクレイアニメがあった。とてもほのぼのとした雰囲気で、とても好きだったことを覚えているが、そのタイトルや詳しい内容はほとんど覚えていない。そこで調べてみたと…

侵入者の体験

夜の街ってエキゾチックだよね、と双子の弟がよく言う。いつだったか、最寄駅からの帰り道でも言っていたし、先日は京都の中心地でも同じことを言うので、それって異国情緒っていうか、単に非日常を見出してそう言ってるだけじゃないのと指摘すると、そうか…

シンプルに曖昧。

生理的欲求が満たされれば十分な気がするし、それってつまり、おいしいものが食べたいだけでもある。ぼく自身を代表するこのからだを守るために、この星の自転に従って正しく整えられた習慣。食べること、寝ること。朝が来たらパンを焼いて、服を着ること。…