25年間に出会った10の教え

 

1. 「物事にはコツってのがあるんだよ」
by 駐輪場のおじさん

 まだ小学生の時だったと思う。駅の駐輪場で、自転車をラックに上手くしまえずウンウン言っていると、駐輪場の管理人さんが近づいてきて、車輪をひょいと浮かせるとこう言った。僕はたぶんその時まで、闇雲にやる以外の方法を知らなかったのだ。

 

2. 「自分が正しいと思ったことをやればいいから」
by バイトの先輩女性

 初めてのアルバイトは近所のファミレスで、やることが積み重なるマルチタスクなその仕事が大の苦手だった。判断に迷うたびフリーズしている僕にベテランの先輩が与えてくれたのがこの言葉である。それ以来人生の指針になったが、マルチタスクは得意にならず半年も経たずに辞めた。

 

3. 「逆だったかもしれねェ…」
by 『NARUTO -ナルト-

 急にマンガの台詞。言わずと知れた名場面である。作中ではライバルに向けられた言葉だが、日常生活においてはあらゆる他人に対して思うことがあり、例えばニュースで報道される殺人犯や自殺した親子にそれを思う。それは重要な回路だと感じる。

 

4. 「マクトゥーブ(それは書かれている)」

by 『アルケミスト

 ブラジルの小説家パウロ・コエーリョの作品。年老いた商人は、主人公にこの言葉の意味を尋ねられ「これがわかるためには、アラブ人に生まれなければならないよ」と答える。きっと理解できないものと知りながら、中学生の僕は物事のすべてを書き記す大きな手を想像し、それが今も頭の片隅に残っている。

 

5. 「よく考えること、自分で決めること」

by 青年心理学の先生

 大学で、アイデンティティと恋愛がテーマの大人気の講義があった。定年間際のおじいちゃん教授が、決断において大事なことはこれです、と端的に説明した時、これは一生の教えになると直感的にわかった。

 

6. 「人間は思ったより適応できる」
by ゼミの先生

 ゼミの担当教員、江口さんと一度だけサシで飲んだ日のことをよく覚えている。幡ヶ谷のライブハウスで江口さんおすすめのバンドの演奏を観た後、近くの焼き豚屋に2人で入ったのだ。当時、周りが就活をする中で全く動いていなかった僕がいま一応会社員をやれているのは、この言葉を真に受けたからでもある。

 

7. 「自分の中の何を手放してはいけないのか、何には固執しなくともよいのかということをしっかりと、けれど柔軟に考えていってほしいと思います」
by ゼミの先生

 大学を卒業する時、江口さんがゼミ生に送ってくれた金言。僕が自分の言葉のように言っているのを聞いた人もいるかもしれないが、すみません、完全に受け売りです。

 

8. 「人に惑わされるな。環境は整えろ。邪魔される暇はない。思い出せ。イメージしろ。完遂しろ。」
by 高校の同級生

 同じクラスに、良く言えば孤高の、悪く言えばちょっと浮いた感じの生徒がいて、あるとき彼がこんなツイートをしていたのだった。他人の内面という深い穴の底を覗き込んだようであり、同時にこの強い言葉に信念の存在を感じた。いまもそれに励まされる。

 

9. 「孤独になれ。
    真の創造は孤独からしか生まれない」
by 高校の美術教師

 真面目にやるのがかっこ悪いと思っている中学生たちは美術の授業中もずっとふざけていて、教師がそれを叱る。光景としてはありふれているのかもしれないが、僕がその場面で聞いたこの言葉は遥かに本質的な響きがあり、もはやそぐわなさすら感じる。今思い返すと、作品の創作に限らない話のような気がしてくる。

 

10. 「形あるものはすべて壊れるのよ」

by 母

 幼いころ、お気に入りの小さいお皿があって、パンやお菓子をいちいち乗せて食べていた。ある時、不注意でそれを割ってしまい、幼い僕は取り返しのつかない後悔と恐ろしさで泣き喚いた。それを慰めようとした母がおそらく何の気なしに言ったこの言葉が、世界の定理として僕の中に深く刻まれたのである。あの小さい、貝殻の形をしたかわいいお皿は、僕が出会うことのできる世界の全ての象徴である。