今月の断片 2021-6

 

 新天地、と言うほど目新しくもない東京の街並み。そこに溶け込んで行くことの不安。慣れていくことへの諦観。眠る前の焦燥と梅雨前線。唇の隙間から音が漏れて、近い、嘘みたいな紫陽花。昨日買った服はもう持っていたから明日返品しに行こうっと、昨日海鮮丼を食べたけど今日はワンタン麺を食べちゃおう、電話をかけることはもう無いかもしれないけれど今日も駅を通り過ぎて、いく、思い出す、安全に生活をする、改札を出るとき、傘を開くとき、触れたい景色はいつだっておぼろげな輪郭を浮かべている

 世界は回復するのだろうか?この大きな傷が癒えていくことが、不思議と、怖い気がする。出会えなかったこの時間が、どうしようもなく失われて二度と訪れない、一過性の季節となってしまうからか、それともその痛みさえ忘れていってしまうからか。どちらにしたって、この時間が報われることはきっとない。ただ、あの時あの人に会いたかった。そう願っていた。